2015/08/21【TRANSCEND】ヨハン・ガルトゥング氏の講演会・ワークショップ①

平和学の父と呼ばれているノルウェーのヨハン・ガルトゥング氏の講演会に参加しました。
私が参加したのは、人数限定ワークショップと講演会の2つです。以下はガルトゥング氏の話た内容を可能な限りで記録したものです。
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【人数限定ワークショップ】
ガルトゥング氏の講義(通訳を通して)※ガルトゥング氏は英語で話していました。

10の項目について話をする。平和学について5つ、そしてトランセンドについて5つ。
(とは言ったものの、私が記録を取っていくうちに項目立てがよくわからなくなってしまいましたので、話は大きく前半「平和学」、後半「トランセンド(transcend)」の大きく2つについて話したということで捉えていただくとわかりやすいと思います。)

[平和学について]
1.人類は1000、2000年、戦争について考えてきた。しかし、学問としては戦争学ばかりが存在し、平和学というものはなかった。だから、私は1951年に平和学という学問を始めた。その当時はどの大学でも平和学などやっていなかった。現在は500以上平和学の学位を与える大学が存在している。しかし、残念ながら日本の大学には未だにない。

2.平和学は国家間の戦争や国内の紛争だけを対象とせず、家庭、ジェンダー、民族など様々であり、その範囲も個人、家族関係などのミクロなレベルから、地域や学校、ひいては自治体、国のようなマクロなレベルまで(ミクローメゾーマクロ)様々である。
平和を考える場合、関係性が大事である。人格や個性の問題ではない。
例えば、日本は70年間戦争してこなかった。国としては素晴らしいことだが、平和を考えるときはそのことが大事なのではない。
ある国との関係性を問題にしなければいけないのである。

平和学を左派的考えと勘違いされるがこれは違う。人間の様々なレベルで存在する関係性を問題とし、これを学問としている。政治的右、左や、その国の法律などが問題ではないのである。

心理学、社会学、政治学などを全て包括しているものが平和学である。もちろん、地理学、歴史学、自然科学などあらゆるものを包括している。

西洋がなんでも知っているわけではない。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、エイブラハムバックグラウンドの人たちは長い間平和的ではなかった。
日本にも仏教、国家神道、儒教など様々な信仰や思想のバックグラウンドがあるが、それらには平和にも使えるし、戦争にも使える考え方がある。

3.平和学とは
データ、理論、バリューの3つからなる。

データと理論をつなぐものとして経験主義があったり、他にも様々なアプローチがある
データとバリューであれば法学的のアプローチも考えられる。

平和学はバリューフリーではない。「平和」に価値を置いている。
それは、例えば、医学が「健康」というものに価値を置いていることに近い。
「平和」はナイーブな定義である。
大切なのは関係性。
対人関係、家族、村…などあらゆる関係には友情、愛情、商売など様々な利害が含まれるものである。 


4.消極的(ネガティブnegative)と積極的(ポジティブpositive・プロアクティブproactive)

これは今の安倍政権と関係している話である。

積極的平和と言ったとき、proactive peaceとpositive peaceがあり、安倍政権の言う積極的平和は前者を指す。私の言う積極的平和は後者だ。


これを医学の「健康」という価値に例えると、

消極的健康・ネガティブヘルスといえば、病気を避けることを指す。

積極的健康・プロアクティブヘルスといえば、病気を直すために薬を飲んだり、手術によって病巣を取り除いたりすることを指す。

積極的健康・ポジティブヘルスといえば、より強い体をつくる、免疫をつけるなどを指す。肉体だけでな精神なども含めて。

 

私の言う積極的平和はつまり、暖かいこころ、いい考えをもつ頭を鍛えるということになる。

 

消極的平和・ネガティブピースとは戦争、暴力をいかに避けるかということを考えることである。

しかし、それでは結局戦争をなくすことはできない。

それは、解決されていない問題(コンフリクト)があるからであり、これを解決することが大切なのである。

 

多くの場合、双方が何を求めているかで衝突が起きる。目的、ゴールが衝突するのだ。

これを解消するためには、新しい状況を設ける必要がある。

この状況では衝突が避けられない。だからニューリアリティへとジャンプするのである。

 

ジョイントオーナーシップ

例えば、尖閣諸島の問題は日本も中国も互いに領土権を主張し、このまま平行線を辿るといずれ衝突が起きるかもしれない。そこで、全く新しい状況を考えるのである。例えば、尖閣諸島をどちらかのものとするのではなく、両国で共有するなどと。収益を分かち合い、互いに損のない状況をつくるのである。そのようにして、領土に線引きをしないということが一つの案として挙げられる。

では、北方領土の問題はどうか。これも同じアプローチができるのではないか。

つまり、日本のものでもロシアのものでもなく共同管理をするのである。

竹島問題も同様に考えることができるだろう。

 

問題として、過去のトラウマをいかに解消するかは大切である。

例えば韓国であれば慰安婦問題、中国であれば南京事件など。

これに対する一つのアプローチとしては、国際調査団をつくることが挙げられる。

また、日本ー中国ー朝鮮の問題では

二つの中国(中国と台湾)、二つの朝鮮(韓国と北朝鮮)がある、それも考えなければならない。


消極的平和だけではだめ、積極的平和をこの上に積み重ねなければ、本当の平和は実現できないだろう。


[トランセンドについて]

私は1958年論文を発表した。

5つの側面

①互恵な協力関係

資本主義経済システムではうまくできない。ニュートラルではあるが、イコールな利益は難しい。


②2当事者間の相手のことを考えること

共感をもって接すること、エンパシーをもって。

日中韓の3国間はネガティブなフィーリングを持っている。


③国際機関、組織が必要

これは、個人レベルで言えば結婚のようなものである。

EC(ヨーロッパ共同体)が1958年1月1日結成した。

東アジアよりもヨーロッパの方が長い間争いの歴史をもっていたが、 ECができたことによってより平和な関係を築けている。今のEUには戦争による解決などまずあり得ない。

そして、東アジアでEUでできたことができないはずがない。つまり、東アジア共同体のようなものが私の予測では、2020年には発足するだろう。

 

④新たなアイディアを生み出すために学ぶこと

現在の安保法制は安全などではなく、非安全だと思う。

もしこの法案が通過し、実施されれば、ネガティブな結果になるだろう。

日本の野党、平和運動を行う市民はちっとも良いアイディアをださない。

民主党は良い思いつきももっているが、準備不足である。つまり、理解が浅く学んでいない。

共同体ができれば、市民の意識は徐々に国から共同体へと変わるだろう。

ECは良い見本になった。


⑤理論と平和実践が一体であること

平和を実現するためには、理論だけではだめで、実践が行わなければならない。

私は150冊以上本を書いている。そして、200程度の実践をやってきた。

 

5.メディエイション(調停、仲裁)

①戦争状況になりそうな時、そのコンフリクトをしっかり把握すること。

例えば、日中関係において、双方のトラウマの解消をしていく必要があるだろう。様々なコンフリクトがある。

中国は日本に侵入したことがないが、日本は中国に2度侵入したことがある。

しかし、日本の方が中国よりも不安に思っている。何か悪いことが起こるのではないかと。多くの場合、過去に悪いことをしたほうがが不安に思うもの。

1980年代、中国は影が薄かった。しかし、今や日本は中国に押しやられてしまった。

なぜ中国はここまで経済を発展させることができたか。

日本の経済学者赤松要(あかまつかなめ)、知らない人はググって。彼の理論は非常に大きな影響を与えました。


日本は太平洋戦争で、中国の経済的をジャパナイズ(日本式化)した。その影響が大きいのである。

他にも早い時期に、台湾、シンガポール、香港なども。


日本が植民地をジャパナイズしたのに対して、ヨーロッパ諸国の植民地政策はそれとは異なっていた。

だから昔のヨーロッパ系植民地は、今もその経済力はもっていない。


中国は決して共産主義ではない。単純に植民地化、日本式化されたとは言っても、それが悪いこととは限らない。良いことでもあったのである。


②一緒くたではなく、1人(1当事者)ずつ話を聞くこと

タリバンやアルカイダと話す場合、彼らが望んでいるもの、理想のあり方、将来像、夢を聞く。その時、彼らがどうなりたいかより、アメリカとどのような関係でありたいかを聞くのである。

同様に、アメリカ国防総省には理想のアフガニスタンとの関係を聞く。

どんなに過酷な過去があっても、過去のことからは聞かない。

 

アメリカの失敗は、テロリスト、共産主義者など話し合おうなどと考えもしないことである。

残念ながら、日本はアメリカに従順すぎる。ほとんどの場面で、日本はメディエイターとしてに入ることができない。なぜなら、日本はアメリカナイズされるているからである。


 

③望んでいるゴール、目的が正当なものか。国際法やその国の法律などの法(law)、人権(human rights)、基本的必要度(basic human needs)に沿ったものかを検討する。


④相手に対して敬意を持って聞く。

聞くためには、3で挙げた法、人権、ニーズの知識が必要である。


⑤クリエイティビティをもつ。

これは、専門家にだけ教えるのではなくて、小さい子どもにも教えることができる。

なぜ大人になるとクリエイティビティがなくなってしまうか。これが正しいかどうかを心配する、良い側か悪い側かを心配するからである。政治的なものの見方が備わり、柔軟なものの考えかたができなくなってしまう。


⑥聞くだけではなく、常に自分の答えを準備していなければならない。そして、それは押し付けることは避けなければいけない。

コンフリクトの所有権は彼らであり、彼らがその解消法を選択していかなければならない。あくまで提案に止めること。メディエイターとして持っているのは、アイディアだけである。

多くの国の代表者はお金はあるが、アイディアがない。

集団的自衛権について、日本人は本気で考えているのか。

安倍政権のやろうとしていることは解釈改憲ではなく、違憲である。


⑦当事者、当事国に共感(empathy)をもって話をすること。

ユーゴスラビア内戦、湾岸戦争など、当事国は何個もあった。

東アジアの場合、6カ国(日本、中国、台湾、韓国、北朝鮮、ロシア)とアメリカが当事国である。

東アジア共同体をつくるのと同時にアメリカといい関係を築くことが大切である。


【質疑応答】

質問

Q1.公明党、創価学会についてどう思うか。

A.残念に思っている。戦争を肯定するような党に変わってしまったのでは。


Q2.ノルウェーに行ってきた。徴兵制をとっている。このシステムはどこからきているのか。

A.日本にも遠からず可能性がないわけではない。自衛隊の人数は少なくなるだろうから。

ノルウェーの徴兵制はそこまで強制ではない。海外へ派兵される場合、それに見合った対価が支払われる。


Q3.尖閣諸島の問題では、政府と政府の問題であったが、我々市民NGOなどはどのような役割を果たせばいいだろうか。

A.日本と中国のNGOが協力しあって、政府に働きかけることなどは大切である。素晴らしい提案である。


Q4.イスラム国が問題になっているが、我々の価値観、人権、男女平等など全く異なる。このような人たちとどうやって対話できるのか。

A.私は彼らの問題にもメディエイションしている。スカイプで話しをして。彼らは十分に話ができる。

よくイスラム国の残虐性と言われるが、彼らから見たら、相手国の方がもっと残虐である。それを比較するか。イスラム国の残虐性だけを指摘するのには問題がある。アメリカやアメリカ側に属する人をイスラム国の人たちが殺しても、軍事介入することはわかるが、イスラム国に占領されている人たちを保護するという選択も考えることができる。それにはイスラエルが関係してくる。

サウジアラビアにおける世論調査92%がイスラム国を支持する。サウジアラビア王家は2年以内に崩壊するかもしれない。


Q5.私は学生です(という前置き)。安保法制について、学者が声明を出しているが、政府の政策と学者との関わり方はどうあるべきか。

A.あなたは学生と言ったが、私も毎日学生、毎日学んでいる。握手をしよう。残念ながら日本の学者は学生ではない。大昔に学んだことを相変わらず今も続けている。政府に対して、批判だけではどうか。提案をしてこなかったらちっとも役に立たない。日本の学者はクリエイティビティがない。

今は軍拡競争が進んでいる。このまま法案が通ればさらに進むだろう。

コンフリクトがなんら解決されていない。

なぜ、アメリカは日本に集団的自衛権を押し付けくるのか。

北大西洋条約機構(NATO)諸国が崩壊、ドイツ、フランスなどアメリカの言うことを聞かなくなった。

イエスマンの日本はそのままでいて欲しいから押し付けてくる。アメリカは日本がイエスということをわかっている。プランBを日本が持っていないから。それもアメリカに見透かされている。


6.先生はいつか平和な世の中が訪れると思うか。

実際の社会で、トランスエンドにおいて35回実績がある。

そこで提案することの多くは5つくらいのステップで受け入れられていく。

①奇抜に取られる。

②メディアも取り上げない。取り上げたとしてごく一部ですぐに存在は消えていってしまう。

③知られるが、バカバカしいと思われる

④考える人が出てきて、疑いを持ってみるようになる。

⑤使えると思う政治家が出て、自分が考えたかのように演説する。

面白いことに、政治家のほうが成功例に関心を持っている。学者は失敗に関心を持っている。


7.積極的平和主義において、軍隊の役割は?

軍事力による専守防衛に徹する、海外での活動はもっと考えなければならない。


右や左ではなく上から見ること。

知識があればいいわけではない。

実践が必要。

実践の場は日常にある。例えば学校のいじめなどをみんなで解決するのも一つ。

お話をしているヨハン・ガルトゥング氏。左の通訳の女性はなんと奥さんでした。
お話をしているヨハン・ガルトゥング氏。左の通訳の女性はなんと奥さんでした。